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にっき
日記
宮本 百合子
15 一九二九年(昭和四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页
だが、それを生きぬけ、と云うであろう。
――○――
自分、まだ自分の心の中に或一つの確心を持って居る。日本の文学がこれまで持たなかった何か一つのものを――作品を――書き得る存在だと云う――これが自分の存在意義だ。この一つのものに докопать〔徹底してやり通す〕するまで自分は死ねぬ。自分の本質がそこまで研ぎ込まれないうちは生きることをやめられない。生きるのはそこへ行く道だと思う。自分には小説書きとして、精神の奥に誕生を待って居るもう一つの自己を直覚して居るのだ。自分なりにリアリスト中條から、中條のリアリズムまで行けそうなものを、この頃は一際明かに感じて居るのだ。だから死なぬ。死とすれすれのところをでも歩いて生きると思う。そのすれすれのところまで行けたらとさえ思う。
自分の奥の院に自分の鏡がないとさとったら、自分はどうするだろう。生きるか? 死ぬる。英男の死の原因で自分の死ぬことは絶対にないが、苅田さんの弟が画家としての自分に見切りをつけて死んだとしたら、これは自分の死の原因ともなり得るものだ。
苅田さんとしては、だから、自分の場合のように思想的に=生活態度の上で抵抗するものがより少ないのだ。