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にっき

日記

宮本 百合子

15 一九二九年(昭和四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页

青空文庫

三月二十四日

その中でも彼の小曲「春の訪れ」は何と鋭い感覚をもって居るか。そこには歓喜によって痛んだ心臓の鼓動がある。

――だが何と私は多く、そして近く牢屋を自分の病臥に感じたことだろう。これは興味ある契点だ。即ち病臥して動けぬ状態が人間にとってアブノーマルである通り牢屋の生活はアブノーマルだということだ。体と心の上に与えられる強制が或共通点をもつ証拠だ。

三月二十四日

前世紀以来、人間の不幸に向って科学が種々な力で働きかけ始めた。例えば医学と禁呪の明かな分離は精神病者を救った。精神病者はもう神の罰、悪魔の黒い力にのりうつられた者として、宗教的苛責を受ける苦痛からすくわれた。道徳の範囲にもこれは見られる。万引をした女は万引を悪事とする認定の下にではあるが、免に角、その犯罪の前後に於る彼女の生理的事情を研究される。これは既に常識となった科学的態度だ。

法医学に於る精神鑑定は、人間が人間に向って行い得る最も原生的な罪、殺人の道徳的結果をも決定する。

『新青年』一冊と一九二九年二月□日新聞所載説教強盗タイ捕苦心談をよんだだけでも、人は如何に探偵術に科学が絶対権をもって居るか知ることが出来るだろう。