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にっき

日記

宮本 百合子

04 一九一七年(大正六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,447 字 · 76 页

青空文庫

一月十六日

と云うことは、私はまだ解らなかった。ところが今解った。嬉しかったが、悲しかった。そして自分がいとおしくなって泣いた。“成長も、破滅も此恋に代えられなくなるときに、恋愛は始めて身にしみる経験となる。”ほんとうにそうだ。今日になって、私はFとの事件が、自分をいかほど発展させたか分らないのを知る。彼の至純、彼の没我の従順さ。此の私よ! 無限の涙がこぼれる。自分のあらゆる宝をささげ尽して、やがて自分から離れ去った此の自分。全くすべて育つべき者は、苦しい“別れのとき”を味う。すべての点から云って、今までの私の恋はすべて、私自ら迎えた悲しい“別れのとき”で終って居る。終らせなければ居られなかったのだ。私は、今日までに、自分にとって、其の恋に代える何物もなかった経験を持って居る。けれども、此れから先、又とそう云うことが有るだろうか?

一月十六日

「三太郎の日記」。「影の人」の2、アリストファネスの卓上演説、切り離された半身が、他の半身を求めて、哀泣しつつ彷徨する……。此の広い天の下のどこかに私の半身が、泣きながら、あてどもなくさまよって居るかと思うと、可哀そうになる。