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にっき

日記

宮本 百合子

04 一九一七年(大正六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,447 字 · 76 页

青空文庫

〔二月中の重要なる出来事〕

三月一日

そして自分の心の中にも安底な底をとろとろと絶えず動き、流れて行く不安がある、動揺がある。

○進むべき者は、「別れのとき」を味わわなければならない。その感じ、その悲壮な歓喜は、只独りニイチェばかり知ったものではないのだ。

○春が来る。夏が来る。又冬が来て来年になる。春と秋の間に、夏のあることは、恐らく永劫不変だろうが、人間の生命などは、宇宙の大きなリズムの間に、小さくこまかに、複雑なリズムをそえて居るものなのだ。が、それでいい。大きなオーケストラの中で、こまかく響く、バイオリンの絃は、小さくても大切なようなものだ。

〔二月中の重要なる出来事〕

十日「ジャン・クリストフ」読了(第一巻)

十五日 父様福島へ御出立

二十日「先覚」読了、玄文社の人来る。

二十三日 訂正原稿を送る。柏亭氏に表装を御たのみする。

二十六日「死せる魂」を読み終る。(第一巻)右の眼不快。

二十七日 坪内先生からお魚を下さる。『女の世界』の記者来る。

三月一日(木曜)

大変に寒くなった。まるで寒中のような心持になってしまった。

おゆきが来て散々泣いて行った。ああやって亭主に死なれて、いつ放り出されるかもしれない親類などへ、僅かの同情心をたよって行くのかと思うと可哀そうになったが、お酒を二本ものんだのを見たら少しいやになった。