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にっき

日記

宮本 百合子

04 一九一七年(大正六年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,447 字 · 76 页

青空文庫

一月五日

一月六日

あのフロックコートは一つ古着でも上げたい程だ。くず屋が買って来るのにも、あの位ひどいのは、少なかろう。僅かにフロックコートだと想像させ得る位ほか、それの持つべき条件がかけて居る。私はあの人が始めてフロックコートを着始めの時から、もう恐らく三十年位、一度もとりかえられたことのないのを信じる。

一月五日

成井さんをつれて、帝劇へ活動を見に行く。そんなに面白くもない。後に慶応出の若い男が二人居て、しきりに女の話をしては笑って居る。随分単純なことを云って居た。かえりに、文房堂と、東京堂へよる。『ザクロの家』と、『破戒』と、『一兵卒の銃殺』を買って来る。『破戒』は此の間千葉先生のところで話に出たので買って見る。夜「ザクロの家」をよむ。矢張りワイルド丈あると思った。美くしいものだ。どれもいい。大人のおとぎ話としては面白い。芸術味の豊かなものだが、子供には分るまい。なんぼ西洋の子が、利口だからと云っても十の子は、十の子の知ることほか知らないのだから。

一月六日

同胞を連れて、銀座から、三越へ行って見る。格別面白いこともない。銀座のあのかたい、ペーブメントの上で、梯子乗りをして居るのを見ると、頭の後の方がいたくなって来た。