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にっき
日記
宮本 百合子
04 一九一七年(大正六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,447 字 · 76 页
四月八日
お風呂に入ると、女中が湯をくみに来ながら、手紙が来て居ると云う。出て見ると、園井のことから、印税や何かのことを書いて、十日まで居てはおそいと云ってあるので、急にかえることにきめる。一時間ほどですっかり仕度をして、三時の汽車に間に合うように自動車を呼ぶ。宿屋の勘定が思ったよりやすいので、二円五十銭もかなり苦にならない、あさかには一寸よって行って、夜汽車で行くことにして、丁度牛乳屋へ行くと云って来て居たおいくにあまった菓子や何かをやる。ステーションに来て見ると、福島高女の出身だと云う、柳沼、樋口と云う人が送りに来てくれる。一寸びっくりする。夜汽車でよく眠れない、大変こんで居る。
四月八日(日曜)
よく、殆ど一寸も眠らないので、頭の工合は悪い。けれども久し振りであかつきを見たことは何よりもうれしかった。ダークブルーの天地、紫のような地面にホッサリとしげって居る麦の若い体が、一吹風が渡るごとに何とも云えないかおりを立ててサヤサヤとそよぐ。気がつかないうちにほのぼのとあかるんで来る空の色、人間の顔、斯う云う新鮮な朝の景物の前に、ねむりの足りない、せわしない人間の顔は非常に劣等に見える。