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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

所謂国家は戦争を声明し、一般の人心が敵害心に燃え立って、理屈が自分達の立場をジャスティファイする為にばかり歪められるような場合、果して幾人が、精神の公平さを失わず、戦をのせて流れる人類の運命の全延長を直視して居られるだろう。

自分の裡に、多分の曖昧さ、便宜主義の種があるのを知って居る自分は、一生のどこかに、大きな大きな地獄の門が口を開いて自分を待って居るように感じる。足許まで焔の迫ったその門を、自分は傷も負わず通り抜け得るか。

恐れで足がすくみ、倒れて焼け死ぬか。

そう云う切迫した時、今まで漠然たる連鎖で、コムラードがあった者は、麦の穂をしごくように淘汰されて仕舞うに違いない。

大事に処する決心と云うものは、古典的なものだ。決心は瞬間に懸るが、その瞬間に懸るものは、箇人の全生命である。

◎

昨夜の席上での話。

八木さわ子さんが苦心して訳した大部の「谷間の白百合」は、たった一枚三十銭で新潮が買ったのだそうだ。そして、佐々木孝丸氏が、お稽古のノートを清書したりメリメエか何かを持って行ったら、

「貴方は男だから、三十五銭に買ってあげましょう」