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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

09 一九四二年(昭和十七年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页

青空文庫

何の魔力のゆえからか。

秘密は唯一つ

それは 幼な児の正直さ。

遊戯の約束は決して破らない

それの たまもの。

単純きわまったこのことに

妻なるわたしは

幸福の天啓をよみとる。

そうだ わたくしも

約束はやぶるまい 決して。

互を大切に いとしい者と思いあう

この おのずからなる約束を。

今宵も ひとり私は灯のそばに坐り

ひとしお輝く光の輪につつまれる。

やがて薔薇も匂いそめ

単純な希いが

たかまり

凝って

光とともに燃ゆるとき

愛するひとよ

御身の命も亦溢れ

われら鍾愛の花の上へ

燦然とふり注ごう。

真白き紙の上に

真白き紙を くり展べて

黒い字を書く めずらしさ。

墨の香は秋の陽にしみ

一字一字は 活溌な蜻蛉。

古き東洋の文字たちは

次から次へと

ふき込まれる命の新しさに愕いて

われと我が身を あやしみながら

七彩にきらめき

いとしきひとの かたへと飛ぶ。

あしたのたのしみ

たった これっぽっちを

幾日もかかって

紙に鼻すりつけて書く可哀そうな私

半めくらの私。

いつも一緒に暮している声が

顔の近くで 斯う云う。

「ユリ そんなによくばらず