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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「これは、これは」

金五郎が、受けとると、

「あたしの家の庭に、咲いたものです。枯れたら、また、とりかえてあげますわ」

「この花の枯れるまでは、居らんよ」

新鮮な菊の強い芳香は、一坪立方の邸内を、いっぱいに、むせかえるほど満たした。のみならず、二つの小窓から流れだして、荒廃した長屋の隅々まで、匂った。

一つ蒲団にくるまって寝る狭い箱の中で、金五郎と新之助との友情は、急速に、そして、堅確に、結ばれた。二人は、兄弟分の誓いを立てた。同年配ではあるが、金五郎が、兄貴分である。

「新公、おれは、この箱から出されたら、すぐ、浜尾組を暇取ろうと思うとるんじゃが……」

「おれも、そう思うちょる。ひでえ親方じゃ。今度のコレラ騒動でも、たった一ぺん、顔を出しただけ、まるで、寄りつきゃせんで、メカケのところに、べたべたしとる。おかみがコレラで死んだのをええことにして、二号を家に引きこむ算段らしいわい。それは、まあ、勝手じゃが、組の者が、こんなむごい目に逢うちょるのに、見舞にも来んし、医者も、看護婦も、さし向けやせん。死んだ者のところだって、かえって迷惑そうな顔して、ほったらかしじゃ。