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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
菊江は、頬面に飯のついていることなどかまわず、巌流島の方をながめながら、呟く。
「おマンさん、人間には、いろいろな階級があるなあ。わたしたちのように、石炭の中で、まっ黒になっとるゴンゾもあるかと思や、あんな、ピカピカ光る西洋の着物着た、まっ白な女もあるよ」
「それが、どうしたかね? 情ないこと、いいなさんな。あたしたちだって、いつまでも、ゴンゾで居るもんか」
そのはげしい言葉に、菊江はびっくりして、マンを見た。
森新之助が、このとき、握り飯を口に頬ばりながら、急に、ものものしげに、声をひそめた。
「おい、みんな、気をつけろ」
「なにをや?」
一人の老仲仕が、鈍重な語調で、きいた。
「おれは、今、ひょっくり、気がついたんじゃよ。あの女たち、露探かも知れんぞ」
誰も答える者はなかった。急に、前とは違った、緊張した顔つきになって、巌流島の女たちを眺めなおした。洋装婦人たちは、なにがそんなにおかしいのか、肩をたたきあうようにして、笑いころげている。
それを見るマンの瞳には、一種軽侮に似た光と、憤りの感情とが、まじりあっていた。
「それに、ちがわん」新之助は、確信にあふれた顔つきで、「このごろ、ロシヤは、日本の女を、さかんに、スパイに雇うとるちゅう噂じゃ。