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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
おれは、そんな時代でも、いっぺんでも、寒い、と、いうたことがない」
川舟乗りから、角力取りになるつもりで、大阪に出た。褌かつぎになって、地方巡業に廻った。山陽線は、まだ全通していない時分のこと、寒中、素肌に浴衣一枚、巡業の荷物を積んだ大八車の後押しをして歩いた。
それから、若松に来たが、日清戦争の風雲に乗じて、朝鮮にわたった。
「おれも、ゴンゾをやったことがある。じゃが、朝鮮では、支那人仲仕が大層えばっとってな、癪にさわってたまらんもんじゃけ、或るとき、船の現場で、二三人、海に投げこんでやった。そしたら、支那の領事館から、日本大使館に、強硬談判を持ちこんで来やがったよ」
吉田磯吉は、身をゆすって、大笑した。
「それから」
と、その後の来歴を語ってから、
「人間、裸一貫、ことに、男は、力と度胸――これじゃよ。……玉井、森、わかったか?」
そういって、吉田は、肩を怒らし、右拳で、厚い胸板を、つよく、ドスンと、たたいた。
煙にまかれた金五郎は、わかったような、わからぬような顔付で、返事をしなかった。
――裸一貫。
その一語だけが、自分流に、わかった。
翌日になって、ほぼ同じ刻限に、二つの事件が、おこった。