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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

数回、そうすると、どうやら、意識を取りもどした。三人は大男を手取り足取りしてかつぎ、山下組の詰所の方に、去って行った。

詰所の裏に、飯代部屋がある。独身仲仕たちの下宿である。もとセメント倉庫だったものを改造して、畳がしいてあるだけだが、広さは三十畳敷ほどもある。それが、三と一の割合で、男仲仕と女仲仕とに仕切られ、台所には、大きな五升釜が、三つならんでいる。

海の見える窓際で、向こう鉢巻をして、将棋をさしているのは、玉井金五郎と、山口甚七だ。二人は、昼休みを待ちかねて、将棋盤を持ちだす。甚七は「ノロ甚」という綽名があるが、将棋は彦島随一で、金五郎は、二枚落しで、どうしてもかなわない。負けん性が強いので、負ければ負けるほど、仕掛かって行き、また、負ける。今も、四苦八苦だ。

「おい、金さん、あら、なんじゃ?」

この島では見かけぬ遊び人が、一人を三人でかついで、窓の外を通るのを、甚七は指さしたけれども、金五郎は、ちらと一瞥しただけ、「どうせ、つまらん喧嘩じゃろうよ」

と、雪隠詰になりそうな、自分の王将へ、情なさそうな瞳をかえした。

石炭の中に、腰をおろして、森新之助は、仲間たちに、前夜のありさまを、声高に説明していた。