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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「誰が、あんな、鼻眼鏡……」

「マン坊の方はそんな気でも、まあだ、敬やんはあんたのこと、あきらめんというぞ。根が狡ン坊のうえに、大学出の智慧者じゃけえ、惚れたがメッチャラで、なにを企らむか知れん。気をつけんさいや」

「なんでやって来ても、負けやせんよ」

「そんなら、ええが……」

ひろい縁の麦藁帽の下から、きりッとしまった面長の顔が、なにかの思いをこめて、マンを見る。すこし鈍くはあるが、眼には意志的な光があり、黒く太い眉がたくましい。

マンは、時次郎の瞳にただよっている、その思いというのが、なにか、よく知っている。そして、マンの方も、時次郎にたいして、或る気持を抱いていた。

「マン坊、今夜、閑けえ?」

「うウン、今夜は、ちょっとばかし、用がある」

用はなかったけれども、水車小屋での事件が、どんな結果を生むか、閑であるとはとてもいえなかった。それどころか、マンは、今にも息をふきかえした「鬼」が、跡を追って来るにちがいないと、びくびくしているのである。

「そうか、閑なら、今夜遊びに行って、ゆるゆる話したいことがあったんじゃがなあ。……明日の晩は?」

「それも、わからんわ」