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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「玉井はん、おいでやす」

女の方から、声をかけて来た。

「今日はあ」

と、仕方なく答えたが、金五郎には、なんのことやら、えたいが知れない。語調もぶっきらぼうで、怒ったようだった。

うすぎたない部屋の中に、いきなり、不似合な百合の花束を投げこんだようである。下ぶくれの丸顔で、眼元の涼しい女は、どこか打ち沈んだところがあって、おどおどしてさえいた。唇の右下にある大きな黒子が、女の顔に妖しい色気を附与している。金五郎は、たしか、この女の名は君香というのだったと、昨夜の記憶を呼びおこした。ベッドの枕元に、ボンネットと、緑色のパラソルと、黒い絹の手袋とが、置いてある。

「新公、どうかい?」

壊れた人形を修繕したみたいに、全身、繃帯でつつまれている森新之助は、絆創膏だらけの顔を、苦しそうに、友達の方に向けた。

「殺されたかと、思うたよ」

「コレラより、よっぽど、人間の方が恐しいのう」

「ほんとに、すみまへん」と、君香は、美しい顔に、消え入りたいような、陳謝の表情を浮かべて、

「なんというたらええか、わからしまへん。あて、なんにも知りへんのに、こんなことになってしもうて。