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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

金五郎は、若松を敬遠する気持が強かった。

「金さんよい」

呼ばれて気がつくと、艀の舷に寝ていた筈の角助が、横に、立っている。

「なんですか? 角さん」

金五郎は、角助が、日ごろから、自分に悪感情を抱いていることはよく知っていたが、格別警戒する気持はなかった。

角助は、醜悪な顔に、狡そうな笑みを浮かべて、

「あんたに、頼みがあるんじゃ」

「どんなこと?」

「おれを、退け者にせんでくれ」

「角さんを、誰も退け者にしやせん。それは、ひがみですよ」

「おれを押しのけて、あんたがボーシンになったことは、おれに力がないんじゃけ、もう、いわん。じゃが、永田組では、おれは古参じゃけ、交際には外して貰いとうないなあ」

「意味が、よく、わからん。はっきり、いうて下さい」

「今度、聯合組の秋の遠足で、武蔵温泉に行くちゅうじゃないか」

「そうらしいです」

「それに、おれを入れてくれ」

「そんなこというても、わたしは下ッ端じゃから、わたしの考えでは、どうにもならんですよ」

「うちの親方が、呑ンだくれの助平で、能なしと来とるもんで、はがゆうて、たまらん。大事な組の仕事はほったらかし、酒ばっかり酔いくろうて、メカケのところに、入りびたっちょる。