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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
壺をあつかう柔軟な女の手つきを、眼を皿にして見た。
「勝負」
その丸味のある声を、金五郎は、三年ぶりで聞いたのである。右腕をまくると、牡丹に蝶の美しい彫青が出た。
二つの骰子を壺笊に入れ、女が白い手で、ぱっと伏せる。骰子はカラカラッと鳴って、静まる。狐、狸、猿、狼、虎――瞬間の輸贏に賭ける、いろいろな眸を、客たちは女の手元に集中する。壺笊が、勢よく、あげられる。
「丁」
その女の声で、一座の悲喜こもごものざわめき。
客は、温泉へ集まった各方面の旅人ばかりで、聯合組の親分連の顔は、五六人しか見えない。
「打つ」組より、「飲む」「買う」組の方が多いらしい。しかし、他の客も、炭鉱主、土木建築業者、請負師などが多く、賭金の額はかなりだった。日ごろ温厚な大庭春吉も、思いきった金を張っている。
たかが、一助役にすぎない金五郎は、こういう旦那ばくちに入る柄ではなかったが、大庭親分が、資本を貸してくれたので、大胆な張りかたをすることが出来た。
七八回、勝負がすすんだとき、金五郎は、妙なことに気づいた。
銀杏返しの女が、鉄火の道ひと筋で、三年前より、さらに、手練が習熟していることは当然だが、金五郎は、その女の鮮やかな壺ふりの手つきに、ふと、なにかのかげを感じた。