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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

愛憎

お京のやわらかい腕から、生あたたかい体温が伝わって来て、金五郎は、変な気持になって来た。

遠くで、三味の爪びきの音がしている。

愛憎

四五日来の雨があがると、夏がぶりかえして来たような残暑が、人々をうだらせた。ツクツク法師も戸まどいしたようで、また、森では、油蝉が鳴いた。

マンは、土間に、茣蓙をしいて、ワラジを編んでいた。

台所の七輪にかけた鉄瓶が、シュンシュン、鳴っている。飯台のうえには、ちゃんと夕食の支度がととのえられ、金五郎の好きなイワシを煮た鍋、焼き茄子、豆腐汁、などの横には、一合徳利も置いてある。茶碗も、皿も、箸も、それぞれ、二人前、いつ、夫が帰って来ても、すぐに、一緒に、晩飯が食べられるようになっていた。マンの膝の上に一匹、方々に、五六匹の猫が散在している。

三足目のワラジを編みかかったときには、外は、そろそろ、暗くなっていた。

「今日も、帰らんのか知らん……?」

マンは、黄昏の表を見て、ふっと、ためいきのように、呟いた。

下駄の音が、聞えた。

(帰って来たわ)

心をはずませて、立ちあがると、入口に、永田親方の細君、ヨネがあらわれた。茂次平という、八つになる男の子の手をひいている。