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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

井場という船具商である。

「あれは、玉井金五郎というて、このごろ、聯合組の小頭になった人です。私の店で、いつも、道具を買うてくれるんで、よう知っとる。道具番に、もと鍛冶屋じゃった清七さんというのが居ってね、これが本職じゃもんで、スコップでも、雁爪でも、チェーン・ボロッコでも、いちいち吟味したうえでないと、引きとらん。それだけ、現場の荷役には危げがないわけですな。若手じゃが、玉井金五郎さんは、ゆくゆくは聯合組を背負うて立つ人と、あの人を知っとる者は、みんな、いうとります」

「それにしても」と、幹部の中老人が、吐息をつくようないいかたで、「若松は、こんなことでは困るなあ。こう暴力団がはびこって、堅気の者をいじめられては、まともな商売はやって行けん。吉田磯吉さんはえらい人かも知れんが、子分連中が、どうもなあ……」

「町会議員にも、ばくち打ちやら、ゴロツキやらが出るようになるぞ」

「今のうちは、まだええが、普選にでもなったら、なにが飛びだすやら、わからんわい。暴力団が政治の権力でも握ったら、大きな大事になる」

若い井上安五郎は、ちびちびと盃をなめながら、無言で、大人たちの繰言を聞いていた。