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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
この車に積んどる蜜柑を、今日、問屋で、言い値で引きとらなんだら、破産じゃと、親父がいうとった」
「ふうン」
「それで、おれに、談判して来いというんじゃ。兄は上手者じゃけど、問屋からいいくるめられてばっかり居るけに、兄はやらん。いつも、むつかしい談判には、末ッ子のおれを使いさすんじゃ」
「そら、そうじゃろ。お父さんの考えが、おれにもわかるぞな、もし」
「どうなるか、当って砕けるつもりじゃが、もし、都合よう行ったら、道後の風呂に入って、遊んで来てええ、って、親父がいうた」
「その時は、おれもつれて行ってくれや」
「うん、……だが、どがいなことになるか……?」
眼に痛いほど、濃く深く澄みわたった青空に、くっきりと、松山城の天主閣が浮き出ている。街の中央に、百三十メートルほどの高さで聳えている城山は、全山、豊富な樹木に掩われていて、緑の瘤のようだ。頂上の白い城は、しゃれた山高帽に似ている。
はるかに、この城を望みながら、蜜柑山の間を縫っている街道を、一台の馬車が行く。その馬車には、蜜柑箱が数段に積みかさねられて、前部の箱のうえに、二人の青年がならんで、腰かけている。