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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

ひろい縁の麦藁帽をかぶっている方の男が、両手に持っている手綱と鞭とで、上手に、馬をあやつりながら、馬車を進める。金坊と呼ばれた方で、身体つきががっしりとし、肩幅がひろい。丸味のある顔は浅黒いが、まくりあげたシャツの先から出ているたくましい腕は、光るほど白い。

片方の青年は、ちんちくりんで、色が黒く、貧相たらしい。かぶっている鳥打帽も、煮しめたように垢じみ、穴がいくつもあいている。

二人とも、蜜柑山で掩われたこの村の青年だ。馬車の出発した、この部落の名は、愛媛県温泉郡潮見村字吉藤。

くねくねと、やたらに曲りくねった道を、馬車は、松山市の方へ進む。この「七曲り」といわれている街道は、昔、敵兵が攻めて来るとき、城の天主閣から、どの道に来てもわかるように、わざと紆余曲折させたものだという。

「金坊、お前んとこの嫂さん、やっぱり、いけんかい?」

「どうもこうも、いけんなあ。だんだん、いけずになるばっかりじゃ。おれをこきつかう分はかまわんが、兄に、ひどい陰口をいうには、へこたれる。――金五郎に気をつけにゃいけん、あれは、末ッ子の癖に、この玉井家を乗っとる腹じゃ。