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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
……どうじゃ? 新婚旅行のつもりで、道後の温泉に行かんか?」
「そりゃあ、行きたいことは、行きたいけど……」
金五郎は、むっくりと、起きあがった。マンの煙管を取って、自分も吸い、しんみりした語調になった。
「おれは田舎を飛びだしてから、故郷なんて、糞食らえ、と思うとった。それが、どうしたわけか、このごろ、馬鹿に田舎のことが思いだされる。親父や、お袋のことを、夢に見たりする。なんかの機会があったら、いっぺん帰りたいと、考えとったんじゃ」
それは、マンも、同じ思いであった。しかし、口に出しては、いわなかった。
――故郷。
どんなに、いやなことがあったにしたところで、人間の宿命のように、忘れることの出来ない、懐しい心の寄りどころであった。
「それで、今度、お前さえよければ、一緒に、帰ってみようと思う。お前も、あんまり、どん腹になったら、旅が出来まいけ、今のうちがええ。第一、子供の籍のことがある。まさか、若松に腰を落ちつけるなんて、思いもせんじゃったもんじゃけ、寄留もせんですましとった。今のうち、分家して貰うとかんと困る。それに、兄貴から借りた三十円も、大庭親方からの前借りを足して、やっとこさで、出来た。