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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

の俊次を、供につれた。

小学校に上ったばかりの光子に、鉛筆や一厘半紙を買ってやった。玩具屋の店先を通るとき、いかにも欲しそうな眼つきをしているので、ゴム毬も買いあたえた。

「俊ちゃんも、なにか、買うて貰いたそうな顔しとるなあ」

マンが、笑って、そういうと、俊次は、もじもじしながら、

「お姐さん、僕、なんにも欲しゅうはないけど、芝居を観に、つれて行ってくれんかなあ……?」

「今から? もう、遅いわよ」

「いンね、ちょうど、ええです。一幕だけ、「虎ノ間」で、結構じゃけ」

「なにが、あっとるの?」

「渡辺ノ綱、羅生門の鬼退治」

「ああ、森の新さんが、やるとかいうとった芝居、今あっとるのね」

「あの、……渡辺ノ綱が、鬼から、兜の錣をグヮシと、ひっつかまれて、ドロドロドロと、天に吊るしあげられるところ、そして、その鬼の腕を、刀でちょん斬るところ――何度見ても、飽かんです」

「前に、もう見たの?」

「二度、見ました」

「まあ、そんなら、三度も見ることはないじゃないの?」

「三度でも、五度でも、毎晩でも、見たいですよ。ええですばい。……お姐さん、そうそう、お姐さんも、ぜひ見なさるがええ。