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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「光坊、来な。ビビンコしてやろ」
俊次は、そういって、光子を、肩車に乗せた。しかし、客が多すぎて、どうしても、うまく観ることが出来ない。台詞や音楽が、とぎれとぎれに聞え、花やかな舞台の色どりゃ、動きが、ちらちらするばかり、なんのことやら、さっぱりわからない。
「俊ちゃん、駄目やわ。大変な人気ね。明日は仕事休みじゃけ、みんなで、揃って出なおそうよ」
「癪じゃなあ」
いくら努力しても観ることが出来ないので、とうとう、あきらめて、外に出た。
「おやッ」と、俊次が呟いた。「ありゃあ、オヤジさんじゃないか知らん?」
暗い街角を曲る金五郎と、市松模様の衣裳の芸者とが、見えたのである。
「そうらしいわね」
そういって、マンは、ちょっと立ちどまったが、二人の姿が、街角から消えると、格別、なにごともなかったような顔つきで、本町筋に出た。もう灯の消された家が多く、街は暗い。
肩車されていた光子は、眠ってしまったので、俊次が負ぶった。「井上金物商」の店先に、立ち寄った。息子の安五郎が、大戸をしめようとしていた。マンの姿を見ると、主人が、奥から、出て来た。
「これは、玉井のごりょんさん、大層、遅いお買物で……」