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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
二人のいる四畳半には、小さな餉台が一つ置いてあるきり、仲居も、簡単な酒肴を運ぶと、気をきかせて、後はよりつかない。窓は明けてあるが、前方は夜の海と島とで、どこからも見られる恐れはなかった。
この一夜のために、深謀遠慮、長期作戦を立てて、隠忍自重して来たお京の張りのある眼は、一層張って、絶対に、目的を達しなければ置かぬという、切なくはげしいものが、みなぎり燃えている。それは、一種、殺気にも似たもので、お京の艶麗な全身から立ちのぼる、妖しい攻撃精神は、今は気ちがいじみたものまでもまじえているようだった。着物の市松模様にさえ、嘗て、安珍を追った清姫の鬼気がただよっている感さえあった。
金五郎は、すっかり、堅くなって、
「お京さん」
「あい」
「すみません」
「なに、謝るの?」
「わたしを、帰して下さい」
「用がすんだら、何時でも。金五郎さん、あたしの一生の願い、かなえて頂戴。約束して頂戴。なんどもいうけど、銭金じゃないのよ。あたしの一念なの」
金五郎は、いよいよ、当惑した顔つきで、尻込みし、
「お京さん、あんたの気持はうれしいんじゃけど、どうも、……なあ」
「どうも――どうって、いうの?」