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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

いつか、時次郎とマンとが、二人いるところへ、旅先から帰って来た金五郎が、突然、あらわれ、

「間男、見つけたぞ。打ち斬ってくれる。二人とも、そこへ、坐れ」

と、怒鳴ったことが、思い出された。

(ふン、人のことどころか、こっちが、重ねておいて、四つに、打ち斬ってやろうか)

マンは、助広の短刀の在り場所などを考え、憎々しげに、心中で、そんなことを呟いてみた。しかし、その強気にもかかわらず、天地のくずれ落ちる中へ、ぐんぐん、吸いこまれてゆくような、いいようもない寂寥と、孤独感とが、全身を包んでいた。涙が、とめどもないように、後から、後から、湧きあがって来る。

その癖、

「ヘン、男は、あんた一人か」

そんな不貞腐れた言葉を、蓮っ葉に呟きながら、しきりと、荷物ごしらえをした。

桐箪笥から、数枚の着物、肌襦袢、腰巻の類をとりだして、風呂敷に包んだ。激情の果てのためであろうか。いつになく、腹の子供がひどく動く気配を、しきりに感じる。

(こんな子供まで、生まれようというのに……)

そう思うと、さらに、新しい涙が流れた。

旅支度を整えると、蒲団をしいて、もぐりこんだ。いつもは、二つならべる枕を、自分のだけにした。