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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

それに、仕事があるので、彼等が、毎日、こんなこともして居られない。すると、松川源十が、夜になって、にこにこしながら、一人の女をつれて来た。

「ええ女中を、雇うて来たぞ」

中肉中背、いかにも健康そうで、色の浅黒い、人のよさそうな、無口な女である。三崎組のボーシンの姪に当るとかで、やはり、女仲仕として働いていたという。田崎ジュン、二十六歳。

金五郎も、逢ってみて、

「マンが帰るまで、よろしゅう、頼むよ」

と、いった。

或る朝、金五郎は、吉田磯吉に逢うために、一人で、家を出た。「飛鳥」で、友田喜造から勧告されて、約束したのである。

底抜けの青空が、動かない白雲を、天に貼りつけている、風のない日である。もう夏が来たかと思われるように、歩いていると、全身が汗ばんだ。綿羽織が、重たい。下駄も、重たい。

金五郎の心も、重たかった。

手土産をなににしようかと思ったが、顔見知りの「魚勝」に寄って、鯛を二枚、揃えた。

「お使い物ですか? お届けしときましょうか?」

気さくな「魚勝」が、そういったけれども、

「いや、自分で持って行く」

青笹を添えた鯛の皿を、風呂敷に包んで、ぶら下げた。