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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(世の中は、むずかしい)
四年前のことが、思いだされた。彦島の病院に、袋だたきされた森新之助が入院していたとき、吉田磯吉が見舞をくれたことがある。そのときと似たような感慨が、金五郎の厚い胸を領した。
――人間と人間との関係の複雑さ、結びつきや、つながりの深さ、浅さ、その溝や谷、食いちがう歯車、敵と味方という危険な想念、理解と誤解との生む修羅――そして、こういうものが、時間の流れを背景にして、死と生とを交錯させながら、織りなして行く運命の劇。思えば、人生は多端で、前途は多難である。
(それにしても)と、金五郎は、思う。(――それにしても、やっぱり、吉田磯吉は、ええとこがある。大きいところがある)
そして金五郎は、まだ、自分の人生勉強の足りなさを、唇を噛んで、強く、反省するのであった。
命
あたしゃ、仲仕で、
半纏育ち
長い着物にゃ、
縁がない……
澄んだ張りのあるよい声で、「ゴンゾ唄」を歌っているのは、女仲仕の原田タネである。
メキシコ丸の舷側に、棚が吊られ、雛壇式の天狗取り荷役が、調子よく、つづけられている。その作業の動作に合わせ、はずみをつけるように、タネは、艀の中で、入れ鍬をしながら、仲仕歌をうたう。