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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
やがて、桟橋上での異変がみんなの知るところとなった。大騒ぎになった。
「玉井金五郎が殺された」
その報は、たちまち、波紋のようにひろがった。
暴徒たちは一人のこらず逃げ去っていた。一本の日本刀が、桟橋の根につながれてある小伝馬船の中に見出された。角助は海中に投じたつもりであったのである。
海岸派出所の巡査がかけつけて来た。水上警察署からもやって来た。桟橋は黒山の人だかりになった。
玉井組の子分連中は、狂気のようになって、敵を探し求めたが、もはや、一人として捕えることは出来なかった。源十と角助とが発見されたのは、しばらく時間が経ってからである。
子分連中は、なお吹き荒れる嵐の中で、文字どおり、天を仰ぎ、男泣きに、慟哭した。
無残な金五郎の身体は、戸板に乗せられて、病院にかつぎこまれた。
幾時間経ったのか、何日がすぎたのか、時日の経過など、まるでわからなかった。生と死との境を夢幻の気持でさまよう金五郎には、もはや、苦痛の感覚もなく、喜怒哀楽の感情もうごかない。ただ、奇妙なことに、いいようもない寂寥感だけが残っていて、
(どこか、誰もいないところへ逃げだしたい)