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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

それよりも、彼の眼を奪ったものは、窓外のすばらしい青空である。指をさしだせば染まりそうに濃い。高く、深く、底なしに澄んで、そこに、馬の形をした雲が、しきりに、早い速力で飛んでいる。白馬の競走のようだ。

「窓を開いて下さい」

と、金五郎は弾んだ語調でいった。

「窓ガラスをお開け」

看護婦が、また、窓を開いた。

金五郎は、いきなり、ベッドの上に立ちあがった。

医者と看護婦とは仰天して、両方から、金五郎の腕を捕えた。

「なにを、無茶なことを……」

「離せ。昇天するんじゃ」

絶叫した金五郎は、ウンと、一つ弾みをつけて、跳躍した。窓から飛びだした。頭と眸とを青空に向け、泳ぐように、両手を天に向かってさしだした。

しかし、次の瞬間、金五郎が自分の身体を発見したのは、天上ではなかった。地面である。しかも、いつか、龍に化している長たらしい全身から、鱗が一枚ずつ剥げ落ちて、ウナギに似た無残さになっていた。そして、金五郎は、自分の前肢が空っぽになっていることに気づいたのである。大事につかんでいた筈の菊の花束がない。

「畜生」

禿げちょろの龍は、口惜しさで、地上をのたうちまわった。