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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
狭い浴場に、白い湯気が靄のように立ちこめ、電燈が月のようである。首筋を深く、顎までつけて、しばらく陶然と、眼をつぶっていた。その金五郎の脳裡に、やがて、先刻の老掏摸のことが、鮮やかに、浮かびあがって来た。
(おれは、ぬくぬくと、風呂などに入っとるが、般若の五郎さんは、今ごろは、蚤や虱だらけの留置場か)
不思議なためいきが出た。
道後温泉で、鍛冶屋の清七と二人、はじめて五郎に逢ったときのことが、金五郎には忘れがたい追憶になっている。あの変てこな三ン下バクチ打ちのために、お京に逢うきっかけが出来たのであるが、それよりも、金五郎は、般若の五郎自身に、ひそかに、感謝していることがあるのだった。
湯町の「神の湯」の浴槽で、五郎と取りかわした会話を思いだす。
五郎は、金五郎の裸の身体を、不遠慮に、ぐりぐり揉みながら、いった。
「立派な体格だ。おれが女なら、首ったけになるよ。百姓には惜しい。龍の彫青でもしたら、大前田英五郎のような親分になることは、うけあいだ」
そこで、金五郎は、からかい半分に、答えたのであった。
「土ン百姓の子でも、親分になれますか」
「そりゃあ、なれるさ」