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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
そのとき、霹靂のように、雷鳴のとどろきをもって、昔聞いた、しがない博徒の言葉が、金五郎の脳裡によみがえって来たのであった。そしてそれは、はからずも、金五郎の生きてゆくための、もっとも大切な信条となったのである。その言葉によって、どんなに救われて来たことか。恐らく、その言葉を吐いた五郎の方は、とっくに、忘れ去ってしまったことであろう。しかし、金五郎にとっては、般若の五郎は次第に忘れがたい男になり、一度、逢って礼を述べたいと、念願するようになっていたのである。
金五郎は、大前田英五郎にはならなかったけれども、喧嘩渡世ではない仕事師であるという自覚を持ちつづけて、ともかく、北九州一円では、名を知られる親分となることが出来た。現在では、「玉井組」は、聯合組の外、三井物産、山九運輸、東海鋼業、八幡製鉄所、その他に仕事を持ち、直属の子分も、数百人を算するようになっている。若松港汽船積小頭組合長として、港湾石炭荷役の元締となり、働く者の代表という意味で、市会に押されて、当選した。大正十一年、第一期、同十五年の二期を、現在、勤めている。その任期も終りに近づいて、来月が改選だ。