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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
という街の袋物屋に、夫婦で出かけ、マンが選定したものだ。見ちがえる筈はない。
「東京駅で、ぽかんと、天井の十二支の絵を見とれとったら、その際にやられてなあ。上京の突鼻に、無一文になってしもうて、井上君から借金したよ」
金五郎は、そういう簡単な報告をしただけである。
「このライターも、借金のお土産なのね」
「昔の懐中ランプを思いだしたもんじゃけ。……よう似とろうが」
「そういえば……」
七人の親になっているのに、二人は青春の日を思いだして、くすぐったげな微笑を取りかわした。
「あのライターは、まだ、関門海峡に沈んどるか知らん?」
「平家蟹が使いよるじゃろう」
そんな馬鹿話をして、機嫌よく笑いあったのだった。
それだけに、この財布の思いがけぬ出現は、マンの胸に、えたいの知れぬ昏迷と、猜疑心とを生んだ。
仏間に持って来て、中を調べた。紙幣や、書類、印鑑、など、ごたごたしたものの中から、一通の封書が出た。
表に――玉井金五郎さま。裏がえすと――京より。すでに、封が切ってある。
マンは、ゴクッと、唾を呑みこんだ。手紙を長火鉢の上に置いた。長煙管を取り、キザミをつめると、胸を張るようにして、深々と、一服吸った。