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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

た気分になって、それを待とうと思った。

「さあ、ババンに負んぶしなさい」

そういって、熱のあるという末子、十二歳の千博を、ヨネが便所につれて行く気配が聞えた。

どうしたのか、猫がしきりに鳴いている。

金五郎は、日記の前の方をパラパラとめくってみた。「禁煙」「禁酒」「禁慾」「禁バクチ」「マゴコロ」「威張ルナ」「忍耐」――そんな字句が、欄外のいたるところに、書いてある。

(どの一つも、実行出来んじゃないか)

泣きべそのような、自嘲の苦笑を浮かべた。

頁一杯に、「今ニ見テオレ」とだけ書いてある日が、数ヶ所あった。

「金さん、まだ起きちょるのかな?」

ババンの声で、電燈を消した。

勝負

三味や鼓の音が、晩春の朝の空気をなまめかしくふるわせて、検番の稽古場から流れ出る。温習会の日も近づいたので、最後の馬力をかけているらしい。

そこへ、のれんを割って、

「おごめん」

胡蝶屋豆八が、ひょこんと、顔を出すと、ワアッと、芸者たちが、躍りかかるように、群がって行った。

「おいおい、無茶すんな。死んでしまうがな」

一時に落ちかかって来た、巨大な花びらに似た女たちの下敷きになって、小柄な豆八老人は、悲鳴をあげた。