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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
障子をあけて、光丸が顔を出すと、
「酒が切れたころじゃないかと思うて、訊きに来たのよ」
と、いった。
泣いて歪んだ青い顔を、ハンカチでふきながら、
「もう、帰りますわ」
「一人で?」
「いいえ、いっしょに」
勝則も、出て来た。酒は飲まなかったのか、怒ったような仏頂面をしている。
「早いじゃないの? ゆっくりしなさいよ」
「帰る」と、勝則がいって、「おコヨさん、広間の方に、親父が来とるじゃろ?」
「ええ、来とんなさいます」
「僕も、出席するようにいわれとったんだ。でも、今日は出られん。偶然、いっしょになってしもうて、弱った。親父に、僕の来とったこと、いわんといて下さいよ」
「はいはい」
「広間の方に行って、誰かに逢うと困る。庭の裏木戸から出るけ、すまんけんど、僕の下駄をこっちに廻してくれんか知らん」
「忍ぶ恋路は、手間のかかることやなあ」
コヨは、そんな冗談口をたたいて、橋廊下を渡って行った。
光丸もそれにつづいた。彼女は帳場の方から表に出るらしい。
手洗所に潜んでいた金五郎は、勝則が小便をしに入って来るらしい様子に、びっくりした。
あわてて、大便所の戸を開いて、飛びこんだ。