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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
光丸も、会釈をかえしたが、マンと視線が逢うと、ふっと、眼を伏せた。
「あっちへ、行きましょう」
マンは、公会堂の裏に出て、蛭子神社の方へ、女をみちびいた。
女は、おとなしく、ついて来る。
境内の大榎の根元に、長いベンチがある。それに、マンが黙って腰かけると、女も、無言で、左手に、坐った。夜風がひいやりとする。すぐ前に、池があって、中心の石亀が、口から噴水を高くふきあげている。それが霧になって散り、暗い社燈にきらめきながら、雨のような音を立てて、水面に落ちる。鯉がたくさんいるらしく、水の落ちるところで、ときどきはねる。
二人とも、それを眺めて、暫時、沈黙していたが、マンの方から、口を切った。
「お京さん」
女は返事をしない。袂で、口をおさえ、笑いを噛み殺している。
「お京さん」
と、もう一度、呼んだ。
「いいえ、あたし、お京ではありませんわ」
女は、そういって、マンの方を向いた。真面目な顔になっている。美しい瓜実顔が正面になって、かすかな社燈の光に浮き出たとき、マンは、あッと、思いだした。舞台で遠くから見たのと、すぐ傍で見るのとでは、感じがちがうけれども、温習会の夜、「夕立」