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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

そして、玉井さんが、大嵐の晩、角助の一味に斬られて、大怪我をなさったとき、あきらめて、東京へ帰って来たのです」

お葉は、ちょっと、口を噤んだ。袂から、塵紙を出して、洟をかんだ。

マンは、お葉が泣いているのではないかと思ったが、相手の感傷に釣られてはならぬ、と、気持を堅くし、さらに、お葉の言動に注意した。しかし、そのマンの方に、一つの感傷があった。

(うちの人が斬られて、生死の巷をさまよっていたとき、あたしは、毎朝、この蛭子神社に日参したのじゃが、お京さんも、同じように、一心こめて、「お百度」踏みに来とったんやわ)

横恋慕をしていた、腹の立つお京とはいえ、そういう、女としての愛情の真実さには、マンも、心の奥底で同感をおぼえている。そして、長い年月が経ってみると、感謝に似た気持にさえなっているのだった。

蛍が一匹、噴水の霧を横ぎるようにして、大榎の梢たかく、消えた。

「母は」と、お葉は、また、つづけた。「それから、出たらめになりました。酒、バクチ、カッパライ、喧嘩、そして、男。……母の男狂いをいうことはつらいのですけれども、母は、まるで、俄盲目にでもなったように、相手かまわず、どんな男とでも関係を結んで、放埒三昧という体たらくになりました。