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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
勝則は、深くうなだれた。唇を噛んだ。それでなくてさえ、むし暑い晩なのに、勝則の額には、内心の苦渋から湧く油汗が、じとじとと、浮いて流れた。
短い沈黙の時間が過ぎる。
「お母さんには、隠さないでね」
その言葉に、はねかえるように、勝則の口から、苦しげな声が出た。
「すみません」
「知っとるんじゃね」
「はい、知っています」
「光丸さんは、どこに居る?」
「博多に居る筈です」
「筈、というのは?」
「そういう約束で、家を出たからです」
「隠れるために逃げたのね?」
「ええ」
ここまで来れば、勝則の覚悟も定まっているらしく、母の問いにたいして、なんのためらいもしなくなっていた。そして、裁判官の訊問の口調も、きびしいながら、どこかに、被告の感情をいたわっているようなところが、いつか、出ていた。
「光丸さんが逃げて、博多に隠れるということ、お前に連絡があったの?」
「わたしたちが、逃がしましたのです」
「わたしたち?……たち、というのは?」
「みんなで、寄ってたかって、逃がしたものですから……」
「みんな? お前一人ではなかったんじゃね」
「はあ」
「誰と誰? 話してごらん」
勝則は、ちょっと、下唇を噛んで、思案していたが、思いきったように、顔をあげた。