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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「碌なこた、しやせん」と呟きながら、また、俥に乗って帰って行った。
プッ、プウッ、とラッパの音が遠ざかったころ、表から、「ノロ甚」が顔を出した。豆腐屋は早起きする。深夜なのに、甚七の店には、もう、あかあかと電燈がともり、モーターの廻る電動音、ベルトの鳴るひびきが起っていた。
「姐さん、夜中に、なんごとですか」
不審顔である。
「なんでもないですよ。甚さんは、精が出ることね。蔵が建つわ」
「ぐにゃぐにゃの豆腐の蔵がね。そんなもん、百建ったって、仕様があらせん」
「そんなら」
マンは微笑して、格子戸を閉め、錠を降した。
息子を奥座敷にみちびいた。
「ちょっと、そこに坐っていなさい」
そういって、台所に立った。ガスで、小さい薬缶に、湯を沸かした。戸棚から、「正喜撰」をとりだすと、急須に茶を入れた。茶托を二つ、茶盆にのせ、座敷へ運んだ。猫が二匹ついて来た。息子の前に坐ると、一つをさしだした。
「お茶をおあがり」
勝則は無言で、湯気の立つ熱い茶をのんだ。
マンも、両手でおしいただくようにして飲んでから、静かな語調で、息子にいった。
「勝則、お前、ほんとうに、知らんのかね」