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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「さあ、歌え」
バイスケに見立てた朱塗の盆を持って、金五郎は催促する。
マンは、心をこめて、歌いだした。
あたしゃ仲仕で、
半纏育ち、
長い着物にゃ、
縁がない……
滑稽な恰好で、金五郎が天狗とり荷役の真似をする。
見物はよろこんで、大喝采。
マンは歌いながら、涙が流れた。
狂気じみた団欒の馬鹿騒ぎが、夜おそくまで、続けられた。
寝室に引きとってから、金五郎は、明けがた近くまで、なにか、しきりと、書きものをしていた。終ると、そっと、手金庫を開けた。森新之助からあずかった、ブローニングのピストルを取りだした。
「お父さん、まだ、起きとるの?」
隣室から、マンの声がした。そういうマンの方が、夕方からの夫の行動が気がかりで、ずっと眠れずにいたらしい。
「うん」
生返事すると、金五郎は、あわてて、ピストルを、寝巻の懐に隠した。
「もう、朝よ。寝不足が一番身体に悪いわ。おやすみなさい」
「それがなあ」と、金五郎の声がおどけ笑いを含んで、「こないだ、お前から打たれた頬べんたが疼いて、寝られん」
「なにいうとるの?」呆れたように、そういったが、急に、マンの声も、妙にいたずらっぽくなって、「そんなら、お父さん、ええ痛み止めの呪禁、教えてあげようか」