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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

風も強い。黒々とした波がうねって、凄いようである。海の底が鳴っている。

金五郎は、ポケットから、ピストルを取りだした。沖に向かって力まかせに投げすてた。闇夜にも、黒い条をえがいて飛んだ拳銃は、コポッという短い音とともに、海中に消えた。

(人を暴力団というけれども、お前も暴力団じゃないか)

友田喜造を、ピストルで脅迫したのである。一大決心をし、生命を賭しての措置であったのだが、疑いもなく、暴力行為だ。あらゆるものを犠牲にし、多くの人々のために、誠心から、この挙に出たことに、悔いはなかったのに、外見にあらわれた行動のうすぎたなさ、愚劣さは、金五郎を打ちのめした。

(気負いたっていた、友田喜造との最後の対決というのが、こんなことだったのか?)

なにか、外に、方法がなかっただろうか。暴力以外の方法は、なに一つ、考えおよばなかったとすれば、もはや、自分は軽蔑すべきヤクザにすぎない。これだけの人間だ。小人物だ。ここに、玉井金五郎の一生は、終りを告げた、といってよい。力ない手で、櫓をあやつる金五郎の両眼から、熱湯のような涙があふれ出た。ダラダラダラと、とめどなく、滝のように、頬を伝い流れた。