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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

「来やがれ」

「来やがれ」

肩を大きく波打たせて、呟く。

「連歌町遊廓」という石柱の立っているところで、一人の奇妙な武者が、出たり入ったりしている。鎧、兜、兵隊靴、右手に日本刀、左手に槍、背に猟銃、腹巻にはピストルをさしこんでいて勇ましい。あたりをうかがい、誰も見えないと、

「どいつでも、こいつでも、来てみれ」

肩怒らして、大声でどなる。四方を睥睨する。見物に対する虚勢らしい。戦闘員がやって来ると、悠々と石柱のかげに引っこむ。兜の下に黒い面をかぶっているので、どちら方かわからない。

形勢は混沌としている。

栗田銀五は負傷して、一の子分の加賀新七が、屋根づたいに、親分を背負って逃げた、という噂が飛んだ。

「島崎が死にもの狂いになっちょるもんじゃけ、友田は、家のなかに隠れて、ぶるぶる、ふるえちょるということばい」

どこから出るのか、そんな報道が、街の人々の口を賑わせている。

「警察はなんしょるとかな?」

「警察の手にゃ負えんよ。軍隊が出動して来よるちゅう話じゃった」

「死人が何人あったじゃろか?」

「さあなあ?……」

高山病院の手術室に、森新之助は、瀕死の姿で、横たわっていた。