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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

おれは、二十五年ぶりに、アイタ、というようなもんじゃ。

お京から、おれは、オンテレ・メンピン、女房が恐いのじゃろう、といわれたことがあるが、このとき、おれは考えた。

(女房に操を立てて、お京、お葉――二人の女を殺してしまうことが、果して、人間の道じゃろか? 男の道じゃろか?)……」

マンは、ゴクッと、唾をのんだ。まるで、猛獣が、相手の出よう一つで、襲いかかるような姿勢で、暗黒のなかに、凝結していた。

金五郎も、生唾をのみこんだ気配だった。

突然、天井裏を、猫が鼠を追って走った音がした。マンは、その音が、雷鳴のようにひびいて、ぎょっとした。身体がふるえ、動悸が打つ。

不気味な沈黙が、ちょっとの間。

「しかし」と、金五郎は、また、低い声で、つづけた。「おれは、考えなおした。そして、お葉にいうた。

――ようく、わかった。わたしも人間じゃ。男じゃ。血も通うとれば、情もある。あんただちの望みをかなえてあげたい。じゃけど、今はいけん。九州に帰って、女房の許可を貰うて来るけ、それまで、待っておくれ。

――おかみさんが、許可なんてするもんですか。

――いんや、マンは、わかった女子じゃけ、きっと、許してくれる。