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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

といって、墓石の上部を、節くれだった指で示してみせる。

「なんにも、ありゃせん」

子供たちがそういうと、善助は得意になって、語りだす。

「お前たちにはわからんでも、お父っあんには、ありありとみえる。これはな、平家さんの御紋じゃ。源平合戦で敗れた平家さんの落武者は、源氏の追討が、えッときびしいもんじゃけえ、日本国中の山奥に逃げこんだんじゃが、このあたりにも来なさったんじゃ。今はこれだけでも開けたが、わしの小さいころは、この谷は昼間でもお化けの出るようなところでな、平家さんの残党が永いこと隠れて住んどった。国勢調査のとき、はじめてそれがわかってな、なんでも、まだ、チョン髷結うた、奇妙なサムライが山奥に居るちゅうんで、官員さんが調べに行ったらな、刀さしたのが出て来て――もう、源氏は亡びたか、と、きいたというわい。谷口家も、平家さんの一門じゃ。根ッからの土ン百姓とはちがうぞう」

マンは、先祖が平家であろうがなかろうが、格別、なんとも思わなかった。父の自慢するのがおかしかった。どうかすると、そのことに父の衰えを感じて悲しかった。

ところが、このことは村では由緒めかして取り沙汰され、村長の家から、二男というのに、ぜひマンをくれと縁談の申しこみがあった。