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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
マンは、猫を抱きとり、折詰を、はげしく、蹴飛ばした。
金五郎も、さすがに、おどろいて、
「危いとこじゃったなあ。おマンさんにお土産のつもりで、わたしは、手をつけずに、ぶらさげて来たんじゃが……」
と、長大息した。
祝いの酒盛であったのに、突如、死の饗宴と化したのである。しかし、それは、助役がいったように、大村組の復讐ではなかった。単純な助役の頭脳では、そうとしか考えようがなかったらしい。彼は、自宅にかつぎこまれると、なおも、
「大村の悪党奴、……死んだら、幽霊になって、とり殺してやるぞ」
などと、喚いていたが、医師の来るのを待たずに、息を引きとってしまった。
このとき、門司市全体を、暗黒の戦慄におとし入れた「上海コレラ」の猖獗は、浜尾組のみならず、すでに、市内の各所に、その兆候をあらわしていた。
朝は気持よく起きて、話をしていた人間が、昼すぎに、四五回、ビイビイと、口から黄色い粘液汁を吐いたと思うと、一時間も経たずに死んでしまう。大して腹痛もないのに、便所に行って、下痢をすると、もう動けなかった。死者が、続出した。疑似コレラか、真性コレラかを判断する暇さえなかった。