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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

などとブツブツ呟いていたが、追々逆上したような眼つきになった。

「もしもそんな結着になったとしたら! ああ、日本なんぞケチ臭い。俺がこのリポートを発表したら、「夕陽新聞」古市加十の名はそれで一躍世界的になるのだ。俺の探訪記はラジオの電波に乗って世界の隅々にまで報道される。……畜生、夢ではないか。……「安南帝国皇帝宗竜王の殺人!」……えらいものを掴まえたもんだ。この事件はいかなる新聞記者も嚊ぎつけて居りませんと、冗談いうな。失礼さんですが、それはね、日ごろ毒虫のように忌まれる夕陽新聞がしっかりと握っているんですぜ。と知ったら顫え上るだろう。その夕陽新聞なるものは、土台骨ばかり大きくて一向に尻腰のない甘茶新聞とは訳が違い、なにしろ命旦夕に迫っているんだから、もう死物狂いだア。たとえどのような妨害をしやがっても、このスクープだけは必ずモノにして、一挙に一流新聞に跳ね上らして見せる。夕陽新聞が潰れるか内閣が潰れるか、大きな眼を開けて見ていろい。よくも今まで百姓々々と馬鹿にしやがったが、今度こそ田舎者の土性骨の太さをつくづくと拝ましてやる。いいか、見ていろ」