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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「ほほう」
何気ないようすをしているが、この方も何やら油断のない構え。見るような見ないような微妙な細目で、チラチラと踏絵の顔を偸み視る。肚黒い面つきである。
「今朝、鶴子がやられたと聞いたとき、わちきは、てっきり花の仕業だと睨んだんだ……わけってえのは、ちょっとゾッとするような話なんだけど……」
踏絵はジロリと上目使いをして、
「去年の十二月初めごろ、わちきは訪問着の仕立をせかせに行くと、花はどこかへ行っていない。そのうちに帰るだろうと思って、あいつの部屋へ上り込んで待ってたけど、いつまで経っても帰らない。……くさくさして、立ち上ろうとすると、足元の畳の合せ目から、紙の端のようなものがはみ出している。……ありふれた紙じゃない。むかし、アメリカで、わちきの親父が筆まめに日記をつけていた、見覚えのある古風な三河半紙だから、今どきこんな紙があるのかと、妙になつかしくなって指でさわってみると、それがずっと畳の裏のほうへ入り込んでいる。……古風な紙だにしろ、一年も二年も前からこんな風になっているとは見えない。ついこのごろ、こんな風に敷き込まれたことがわかる……。