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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
頭の血がスッと踵の方へ下りてゆくのがわかる。
えらい事になってしまった。一体自分はどんなところに落ち込んだのだろう。まずそれを確かめて見る必要がある。震える手でポケットから伏樋の地図を取り出して、自分がいま来た道を辿って見る。ようやくわかった。地図に井の印がついていて、その傍に、「南部邸用水溜井戸」と朱書がしてある。加十は南部甲斐守の邸の井戸の中に落ち込んだのだ。南部甲斐守の邸は、ちょうど現今の日比谷公会堂が建っている辺りにあった筈だから、自分はいまその近くの地下にいるのだということだけはわかる。王様をおびき寄せようとした悪党が、日比谷公会堂の地下室にいるといったのは嘘ではなかった。
しかし、こんなことが判ったって、加十の窮境には一向変りはない。いや、それどころか、絶体絶命なことがいよいよはっきりして来た。地図を見ると、真名古に通知してやった自分の位置から、複雑な迷路を紆余曲折してここまで来たことがわかったからである。かりに真名古が加十の手紙を見て救いに来てくれたって、到底この迷路を辿ってここまでやって来ることは出来まい。たとえ出来たとしても、二日や三日ではこの無数の横道を全部探ねあげることは出来まい。