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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
二、加十、怪人物に逢う事 並に鶴の噴水の事
これが波瀾万丈の怪事件の端緒になろうというのだが、その経緯については次なる章を御読み取り願いたい。
二、加十、怪人物に逢う事
並に鶴の噴水の事
服部の時計台はまさに九時を報じ出そうとする。銀座は今が人の出盛り。紋日々々には訳もなく銀座へ銀座へと押出して来る物欲しげな人波が、西の片側道を小波立てて流れて行く。夜会の崩れにしては時刻が早過ぎるが、粧々しいお振袖や燕尾服の白チョッキがそこここに横行するのはいかにも年越の晩らしい風景。古市加十が人波に押されながらコロンバンの前までやって来ると、八雲町の交番の方から燃立つような夜会服の裾をヒラヒラと蹴返しながら、蓮歩楚々として進み寄ってきた年のころ卅二三の専太郎好みの乙な美人、古市の傍をすり抜けようとしてふと足を止めると、鶯のような嬌声を発して、
「アラ、古市さんじゃアなくッて」
と声を掛けた。
この婦人は村雲笑子といって四、五年前までは相当に鳴らした映画女優だったが、案外眼先の利くところがあって、映画会社の重役を退っ引ならぬ関係に嵌め込み、人気の外には収入も無い映画女優などは後足で砂を掛け、土橋に近い銀座裏のある町角に「巴里」