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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页
槍※岳初夏(西岳より)
清見ヶ原の挿図
ここから白檜の間を、笹と灌木をふみわけて、下り加減に南へたどると、次々に大小の池があらわれる。左手の左俣へ、こぼれそうにたたえた釜なりのもあれば、なだらかな丘に抱かれ、岳樺の傘をかざした、隠り沼といった趣きのもあり、樹の茂った高い崖の根に蒼暗く、古城趾の濠を思わすのもあって、小バイケイ草の多い、美しい草地の波を越えると、ここらで最大の明るい池畔に出る。双六ノ池の半分よりは大きかろう。ゆったりした草尾根や丘に囲まれ、尾根に沿うて南北にやや長く、北に小沼をひかえて、白檜や岳樺の疎林はあるが、広く大空に水面をさらしている。上から望んで、原の中心をなしていた、あの池であろうとうなずかれた。
槍ヶ岳と穂影ノ池の挿図
南の池尻に近い高みにある白檜の疎林、その樹齢数百年――と義蔵さんが鑑定した――の古幹の間に、天幕をはって、私は十日余り、単身画作に暮らした、一日おきくらいに、双六から連絡してもらって。南には池つづきの美しい原が小広い。この辺が、まずこの原の中心部であろう。ここまで峯から一時間半ほどかかったが、後に、も少し北よりから小尾根に出て、そこから逆に南よりの林をぬけて、直接ここへ出る近道を見つけた。