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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

林を抜けると、一軒の小屋がある。蚤が多いから、ちかよらぬように、と助七から警告される。鉱山へ働きに行く人たちの定宿だという。ただし無人。さきほど林道との追分けに、古草鞋が山をなしていたのも、この人たちのものだった。

実際この道では、いつもどこかで、彼らに会わないことはないくらい、上るもの下るものが絶えぬ。川しもの音沢、内山はもとより、山崎や舟見、或いはもっと遠方からも、隊を組んで稼ぎにやってくる。そして盆だとか、祭礼だとかいう時には村へ下りて、それが済むと又登る、といった風だとの事だ。たいてい男だが、女も多少は見かける。男でも、まだ子供じみた、色白の、キャシャな体つきのも交っていて、そういうのは、ことに痛々しい感じを起させる。みんな鞄やら、行李やら、かがりやら、いろいろな荷物をかさ高に背負って、初めての手合いも多いと見え、――まだヤマは遠いかネ、などと、恐る恐る助七たちに聞いているのもあった。心なしに、幾百年の巨樹の露を浴び、常住に消えもやらぬ高根の雪を踏んで、――そして唯ひと筋に、あの鉱山さして、苦しい労役を求めに行く……

北ノ谷と中ノ谷とが、小黒部本流(与左右衛門谷)と落合うあたりから、道は水について、脚にひとしおの傾斜を感ずる。